1――一人だけ、支援の枠から外された

佐藤美咲は、地方自治体の子育て支援給付を申請しました。低所得で、幼い子どもを一人で育てている美咲にとって、その給付は家計を支える大切なものです。しかし、制度の対象は「一定の公的支援を受けている世帯」に限られていました。美咲の世帯は生活状況がほとんど同じなのに、形式上その区分に該当しないとして、申請を退けられました。

不支給の処分を争う訴訟を起こした美咲は、給付対象を定める法律そのものに問題があると考えました。裁判所に違憲審判を求めましたが、その申立ては認められません。そこで美咲は、韓国の憲法裁判所に憲法訴願を申し立てます。争点は、線引きが平等の原則に反するかだけではありません。仮に違憲でも、法律をただちに無効にするのが適切なのか、という問題も浮かび上がりました。

2――違憲なら、法律をただちに無効にすべきか

美咲の訴えが提起する中心的な問いは、こうです。法律に違憲の要素が認められる場合、韓国の憲法裁判所は、どのようなときに法律を無効とするのではなく「憲法不合致」と宣言できるのでしょうか。

3――韓国法が定める「憲法不合致」

韓国の憲法裁判所法第68条第2項による憲法訴願は、具体的な裁判で適用される法律の憲法適合性を争う手続です。訴訟の当事者が裁判所に違憲法律審判を申し立て、その申立てが却下された場合などに、憲法裁判所へ申し立てる仕組みです。一般的な法律相談や抽象的な制度批判のための手続ではありません。

憲法裁判所が法律に違憲の問題を認めたとき、通常はその法律を無効とすることが考えられます。しかし、無効にすることで別の深刻な問題が生じる場合には、違憲であることを確認しながら、直ちに効力を失わせない「憲法不合致決定」が選択されることがあります。代表的な場面は、次の四つです。

  1. 平等違反を正すため:一部の人だけに給付を認め、同じような状況にある人を合理的な理由なく除外している場合、法律全体を無効にすると、従来の受給者まで給付を失うことがあります。給付そのものは憲法上許されるのに、対象者の線引きだけが不平等なら、給付を消すのではなく、違憲状態の是正を求めることがあります。
  2. 立法者の判断を尊重するため:法律のうち合憲な部分と違憲な部分を明確に切り分けにくく、是正方法にも複数の選択肢がある場合、どの制度設計を採るかは国会に委ねるのが適切なことがあります。
  3. 法的空白を防ぐため:法律を直ちに無効にすると、社会生活に必要なルールがなくなり、かえって混乱を招く場合があります。そのときは、立法による修正まで法律を暫定的に適用する決定があり得ます。
  4. すでに改正法が成立している場合:審理対象の旧法に違憲性がある一方、決定の時点ですでに合憲的な改正が行われているなら、改正法を適用させる形で憲法不合致を宣言することがあります。
憲法不合致決定は、違憲性を見過ごす判断ではありません。違憲の問題を確認したうえで、無効化による不利益や、立法によってしか解決できない制度設計の問題にも配慮する判断です。

ただし、決定後の法律の扱いは一律ではありません。違憲状態を是正するまで暫定的な適用を認めるのか、適用を止めるのか、改正法をどのように適用するのかは、憲法裁判所の決定内容によって異なります。

4――韓国の裁判所は何を見て判断するか

韓国の憲法裁判所は、違憲か合憲かという結論だけでなく、その結論が社会や権利に及ぼす影響も考慮します。とりわけ、法律を無効にした場合に何が起きるか、立法府が違憲状態をどのように改める余地を持つかは重要な判断材料です。

憲法裁判所が立法府に代わって、複数ある制度設計の一つを選ぶべきでない場面があります。違憲状態を解消する方法に幅があり、国会に是正の余地があるなら、憲法不合致決定によって修正を促すことがあります。

一方で、法的安定性への配慮は、違憲状態を永久に維持する理由にはなりません。憲法不合致決定は立法府に修正を促すものであり、決定の主文や期限、暫定適用の扱いなどを踏まえ、法律がどのように変わったかを見極める必要があります。

5――美咲のケースに当てはめる

まず、美咲の訴えは、給付制度への不満だけではなく、係争中の訴訟で適用される法律の違憲性を争うものです。第68条第2項の憲法訴願を用いるには、具体的な裁判との結び付きが必要です。美咲が実際に訴訟を起こし、違憲審判の申立てが却下されたという経緯は、その手続の枠組みに沿っています。

次に、対象となる線引きが合理的かが検討されます。給付対象となる世帯と、美咲のように対象外とされた世帯との間に、制度目的に照らした実質的な違いがあるのか。単なる形式上の区分にすぎず、同じ程度に支援を必要とする人を除外しているなら、平等原則に反する可能性があります。ただし、給付の目的や財政上の事情なども含め、線引きに合理的な根拠があるかを慎重に見ることになります。

仮に不平等が認められたとしても、給付制度全体を無効にするのが最善とは限りません。無効化によって、対象とされてきた世帯まで支援を受けられなくなれば、違憲状態を正すどころか、給付を必要とする人全員を不利益にしてしまうおそれがあります。対象を広げるのか、別の基準を設けるのかは立法上の選択を伴うため、憲法裁判所が一つの方法を決めるより、国会に是正を委ねる理由も生じます。

そのため、美咲のケースで憲法不合致決定があり得るとすれば、主に「一部の人だけを支援する仕組みが平等に反する一方、給付を丸ごと失わせるのは適切でない」「不平等の解消方法は立法者が選ぶべきだ」という点が根拠になり得ます。ただし、どの決定が実際に出るかは、制度の内容、違憲状態の程度、無効化による影響、改正の有無などによって変わります。

6――結論:美咲の行方と、同じ立場の人がすべきこと

美咲の訴えは、給付対象の線引きが不合理であると立証できれば、違憲状態の是正につながる可能性があります。ただし、憲法不合致決定が出たからといって、本人への給付がその場で自動的に認められるとは限りません。給付を受けられるかは、決定がどのような効力を定めたか、その後に法律がどう改正されたか、係争中の訴訟にどう適用されるかを踏まえて判断されます。物語の美咲についても、裁判所が線引きの不合理さを認め、国会に制度の見直しを促した一方、最終的な受給資格は改正後の規定と決定の効力に従って決まる、という結末が考えられます。

同じような問題に直面したら、次の点を意識してください。

  • 不支給の理由と法的根拠を保管する:処分通知、申請書、適用された条文、行政機関とのやり取りを保存します。
  • 訴訟と憲法訴願の期限・要件を確認する:第68条第2項の手続は具体的な裁判と結び付いています。違憲審判の申立てが却下された経過を含め、韓国法に詳しい専門家へ早めに相談しましょう。
  • 決定の主文とその後の改正を確認する:「違憲」とされたかだけでなく、法律が暫定適用されるのか、改正がいつ施行されたのかを調べ、自分の申請や訴訟にどう影響するかを確認してください。