AIデータセンター開発会社Firmus Technologiesは、10月23日のオーストラリア証券取引所(ASX)上場を通じ、投資家からA$70億を調達する計画だ。新規株式公開(IPO・企業が初めて株式を一般に販売する手続き)で想定される企業価値は最大A$437億。記事によると、これは1997年のテルストラに次ぐ、オーストラリア史上2番目の規模のIPOだ。しかしFirmusは赤字で、契約したデータセンター容量のうち稼働中なのは一部にとどまる。高い上場時評価額が実際の事業規模や財務状況をどれほど反映しているのかが、今回の上場をめぐる核心的な問いとなる。
背景と経緯
Firmusは、エヌビディア製チップを備えたデータセンターを開発し、MetaやOpenAIなどの大手テクノロジー企業に計算能力を貸し出している。従来型のデータセンター事業者が主に施設と電力を提供し、顧客がチップを持ち込むのに対し、Firmusはチップを自社で所有する。このモデルは顧客に必要な計算能力を提供する一方、チップの価値や技術の変化に会社自身が直接さらされる点で異なる。
Firmusが契約したデータセンター容量は912メガワット(MW)。ただし、現在稼働中の容量は46MWで、約5%にすぎない。2カ所のデータセンターが稼働しており、残りは計画段階または建設中だ。記事によると、Firmusは今会計年度上半期にA$7,700万の損失を見込んでいる。つまり、契約規模と稼働施設の規模には大きな隔たりがあり、計画された事業を実際の施設として完成させられるかどうかが、企業価値を判断するうえで重要な要素となる。
企業価値の上昇ペースも際立っている。Firmusは2025年11月の非公開投資ラウンドで約A$60億と評価され、2026年8月のラウンドではUS$105億を超える評価額が付いた。今回の上場目標額であるA$437億は、8月の評価額の約3倍にあたる。同社は8月以降に新たな契約を結んだものの、契約金額は公表されていないため、公開情報だけでは、評価額の上昇を裏付ける事業規模を見極めるのは難しい。
財務情報にも空白がある。記事は、現在および予想される売上高、負債水準、データセンターの建設費用がまだ確認できないと指摘する。こうした情報は、投資家が売上成長の可能性だけでなく、施設建設に必要な資金や損失負担も併せて評価するために必要だ。公募価格を最終的に引き下げるかについては、値下げを検討しているとの報道があったが、確定した決定として伝えられているわけではない。
このニュースが意味すること
上場時の評価額が高いからといって、その評価が間違っていると断定することはできない。ただ、現在稼働中の容量が契約容量の約5%にとどまるという事実は、投資家がすでに稼働している事業だけでなく、今後建設される施設や、将来の契約履行にも大きな価値を見込むことを意味する。計画や契約が実際の稼働や収益につながるペースが期待を下回れば、高い評価額を正当化するのは難しくなる可能性がある。
チップを自社で保有する事業構造には、技術変化のリスクも伴う。記事は、エヌビディアが投資家、供給者、顧客という複数の立場で関わっていると説明する。このように事業上の複数の関係が一社に集中している場合、その企業の技術や事業見通しの変化がFirmusにも影響しうる。ただし、そうしたリスクが実際にどの程度の損失につながるかは、公開情報だけでは分からない。
上場の結果は、個人の年金資産にも関係する可能性がある。Firmusが主要株価指数に採用されれば、指数に連動するパッシブファンド(指数の構成に近い形で投資するファンド)は株式を買い入れる必要がある。記事は、上場後最初の3カ月間におけるパッシブファンドの買い入れ額をA$5億~A$10億と推計している。年金資金の一部が指数連動型ファンドに投資されている場合、そのファンドがFirmus株を保有すれば、加入者は自分で株式を選んでいなくても、間接的に株価変動の影響を受ける可能性がある。
例えば、ある加入者の年金資金が指数連動型ファンドに投資され、その指数にFirmusが含まれていれば、ファンドによる株式購入を通じて、加入者の資産の一部がFirmusの株価に連動する可能性がある。これは、すべての年金加入者が必ずFirmus株を保有するという意味ではない。実際に保有するかどうかや保有比率は、加入している年金商品とファンドの投資方法によって異なる。
確認されている事実と、まだ分からないこと
確認されている事実
- Firmusは10月23日のASX上場を通じてA$70億を調達し、最大A$437億の企業価値を目指す。
- 契約容量912MWのうち46MWが稼働中で、データセンター2カ所が運営されており、残りは計画段階または建設中だ。
- 同社は今会計年度上半期にA$7,700万の損失を見込む。
- Firmusはタスマニア北部にデータセンター3カ所を計画しており、ベルベイの施設は州内で最大の電力消費施設になると伝えられている。
- オーストラリア準備銀行(RBA)は、AI企業間の循環的な金融関係が金融システムの脆弱性を高める可能性があると警告したが、Firmusを名指ししたわけではない。
まだ分からないこと
- Firmusの現在および予想される売上高、負債額、データセンター建設費用はいくらか。
- 公募価格は最終的に引き下げられるのか。
- OpenAIなどと締結した新規契約の具体的な金額や条件は何か。
- 計画中・建設中の施設はいつ稼働し、契約容量が実際の売上につながるペースはどの程度か。
読者が確認すべきこと
- 公募関連資料が公開されたら、売上見通しや損失、負債、建設費用を併せて確認し、企業価値がどのような前提に基づいているのかを見極める必要がある。
- 年金加入者は、自身の商品が指数連動型ファンドに投資しているか、そのファンドがFirmusを組み入れた場合に保有比率や価格変動の大きさがどう変わりうるかを確認できる。
- タスマニアのデータセンター計画に関心がある読者は、施設ごとの進捗段階、地域の電力使用に関する論点、住民の意見を聞く取り組みの状況を分けて確認する必要がある。



















